広島高等裁判所松江支部 昭和46年(く)3号 決定 1971年5月22日
主文
原決定を取り消す。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
よつて按ずるに、被告人は昭和四六年一月二一日暴力行為等処罰ニ関スル法律一条の三違反被疑事実によつて、鳥取簡易裁判所裁判官森田富人発布の勾留状により勾留され、同月二八日鳥取地方裁判所に公訴が提起されたが、同年三月一一日付保釈決定により翌一二日釈放されたこと、ところが同年四月一九日検察官から原決定記載の如き訴因の変更を請求する旨の書面が提出されたので、同日鳥取地方裁判所裁判官平田勝美は、職権で訴因の追加的変更にかかる事実について勾留状を発布し、これにより勾留がなされたこと、右事実は訴因変更前の事実と一体として常習一罪の関係にあつて、訴因変更の段階で一個の罪につき二重の勾留がなされたことになつたこと並びに常習一罪につき保釈中の者が、さらにこれと一罪の関係にあるとみられる罪を犯した場合、これについてあらたに勾留をすることが許されると解すべきことは、原決定説示のとおりである。
しかしながら、本件におけるが如く、訴因変更の段階において一個の罪につき二重の勾留がなされた結果になつたような場合においては、公判裁判所は二重の勾留状態を解消するため、その裁量に従い、いずれか一方の勾留を取り消す可きであると解するのが相当である、この点につき原決定は、後の勾留によつて先の勾留が当然に取消されたものと解すべきであるというけれども、この見解は法文上の根拠に乏しいばかりでなく、手続面の安定性を考慮しない点において、当裁判所の採用し得ないところである。それ故既に二重勾留の状態は解消されたとの事実を前提としてなした原決定は違法であつて取消を免れないが、本件二重の勾留中そのいずれを取消すべきかについて当裁判所が判断を加えることは相当でないから、原決定の取消をなすのみにとどめ刑訴法四二六条二項前段を適用して主文のとおり決定する。(西俣信比古 後藤文彦 右田堯雄)